ペン字のかな文字、ひらがなの手本にフォントという考え

 書店に並ぶペン字、美文字本を眺めていてもなんだかしっくりこない。好みの字体が見つからないことってありませんか?

私は特にひらがなのお手本を探している時にそう感じたのですが、あれだけたくさんのペン字、美文字本があるにも関わらず、自分に合ったお手本が見つからない。すでに漢字の手本は別で持っているので余計に難しいのかもしれませんが、お手本探しで苦労される方もいるような気がします。

この間も探していて、本当にペン字本では見つからなかったので書道のかな習字本を見てみても、今度は古典のような伝統的な形であったり、連綿(続け字)を意識したものでありました。
それならと、かなの書体辞典のようなものを見てみますが、確かに数十ある書体の中にはいいなって思えるものがあったりしますが、今度は練習がしづらいページ構成。辞典なので好みの書体がクローズアップされているわけでもなく、ざっくばらんに編集されているので練習には使えそうにない。

結局、数十冊手に取って見てはみましたが、「これならまだいいかなぁ..」くらいの本にしか出会えず。

例えば、佐藤友里著「ペン習字のすべて」や浅見錦龍著「だれでも上達する かなの手本」は、いわゆる教科書体と呼ばれる現代のひらがなの基本のような形に見受けられますが、それでも字形は異なります。
見ていて気になる字と言えば、「え」「さ」「せ」「と」「も」「を」など。他にもありますが、書きぶりが異なりやすいのはこの辺りです。

確かに、古典のような伝統的なひらがなを書こうと思えば、書道における代表的な手本(高野切、粘葉本和漢朗詠集、関戸本朗詠集)を書写すればいいのかもしれません。
しかし、ペン字では実用を考えて練習される方が多いと思いますので、まずは楷書、その後に行書、草書に進んでいくと思います。かなの練習を始めるなら正楷書と呼べるような字体で練習を行いたいものですが、これ!といった好みの字体は見つからないものです。

もはや万策尽きたかと思いましたが、まてよ・・・ペン字や書道本から探さなくても良い字、上手い字、整った字って活字でもいいんじゃないか?それこそ、フォントでもいいんじゃないか?と思いました。

目次

  1. フォントの明朝体、毛筆体、楷書体に着目
  2. フォントが手本になるのか?という疑問
  3. フォントの原形も古典
  4. 日本語は漢字とひらがなの混合。漢字との調和性が求められる
  5. フォント探しの参考になるサイト

フォントの明朝体、毛筆体、楷書体に着目

そもそもフォントは、パソコンやスマホを目にする方なら用語としての意味は知らなくても常日頃から目にしている字体であります。
フォントも文字の書体のことを指し、パソコンの画面表示や印刷に使われるデジタル書体である文字のデザインのことを言います。明朝体、ゴシック体、毛筆体、楷書体、ポップ体など、さまざまな種類があります。

スマホやパソコンで使われる一般的なフォントはゴシック体と思いますが、どの字も同じ大きさ、同じ太さ、形も角ばっていて、筆で書かれる打ち込み、とめ・はね・はらいは一切ありません。これをお手本にというわけではなく、数あるフォントの中でも明朝体や毛筆体、楷書体と呼ばれる中から見繕うというものです。

フォントが手本になるのか?という疑問

フォントを字の練習の手本にしている話は聞いたことがないし、ペン字教室や書道教室でもフォントを手本にしているなんてまずないと思います。

なぜか?と思えば、仮に明朝体や毛筆体、楷書体であったとしてもパソコンやスマホの画面で表示される字って味気無さを感じます。無味無臭、平たく言えば幅広い人に受け入れられやすい字に作られているからでしょう。美しい字、綺麗な字を考えると芸術性や独創性といった味わいも大事だと思いますので、ペン字や書道教室で採用されないのも当然と言えるかもしれません。

では、もう少しフォントについて考えてみましょう。

フォントの良さや品質が何かと言えば、高い可読性と判読性。漢字、ひらがな、カタカナそれぞれを組み合わせても調和を乱さない視認性の良さ。読みやすい字、疲れにくい字。全体の統一感を突き詰められて作られていると言えるのではないでしょうか。
また、明朝体や楷書体を考えてみると筆で書かれたような字体を感じつつも、筆感を感じさせない自然さもあります。打ち込みやとめ・はね・はらいを抑えた機械的なデザインとも言えるかもしれませんが、ペン字の練習に限って言えば筆感が控えめであることは余計な情報が入らない分、お手本にしやすいと言えるかもしれません。

そう考えると、特にペン字の楷書を練習する分には、上手な字、綺麗な字の要素の多くを含んでいると言え、悪くはないのではないかと思えてきます。

フォントの原形も古典

フォントにしても字形を作り上げる上で参考にされる古典が必ずあります。中国の有名な古典といえば、欧陽詢(欧体)、顔真卿(顔体)、虞世南・褚遂良と呼ばれる唐の四大家の作品などが広く知られるところであります。

楷書体については、古くは木版、活字、写植といったものを中国から輸入して和文フォントの元にされていることがあり、例えばフォントワークス社の楷書体グレコファミリーは、中国の活字書体サイノタイプ楷をベースに開発された書体です。サイノタイプ楷は、中国における標準書体の一つとして知られますが、書体の制作にあたっては欧陽詢流および柳公権流の書道家が携わっております。

もし、フォントを手本にするとしたら、そのフォントが誰のどんな書体を参考にフォント化されたのかルーツを探ってみるのもいいと思います。

日本語は漢字とひらがなの混合。漢字との調和性が求められる

日本語の文字は、かな7割、漢字3割とも言われますが、元は中国由来の漢字です。一音一字のひらがなは、古くは万葉仮名、草仮名、変体仮名でありました。

現代のひらがなが確立されるのは、寺子屋から小学校へ移り変わる明治時代に遡ります。1872年(明治5年)に「学制」が発布され、1886年(明治19年)に「小学校令」を経て、1900年(明治33年)小学校令施行規則によって48字のひらがなが定められたとされています。
現代のひらがなの歴史は百年余りと考えれば、書店に出回っているペン字や美文字本のひらがなは、その作者による現代風のアレンジ書体と言えるかもしれません。

もちろん、ひらがなにも代表的な古典の手本(高野切、粘葉本和漢朗詠集、関戸本朗詠集)はありますが、そこからさらに作者のアレンジが加わっているからお手本によって微妙な差異が生まれているのだと思います。

書店に並ぶペン字や美文字本のひらがなに少なからず違和感を感じてしまうのは、作者による微妙な差異であると思いますし、漢字と組み合わせた時のマッチング、調和性や適合性の部分でなじまない所を感じるからだと思います。

漢字とひらがなの混合を考えると、フォントの調和性や適合性の高さは、ペン字や美文字本のものより優れた書体もあると言えるかもしれません。

フォント探しの参考になるサイト

Adobe Fonts

LETS

Fontsworks

Font Garage

fontnavi

モリサワ

以上になります。市販のお手本で合う書籍があるのに越したことはありませんが、もしなければフォントも眺めてみて、好みの字体を探すのもいいのかもしれません。