晴れて人生初のマイ・カーを入手し納車したは良いものの、納車した日からずっと車庫に入れっぱなしにしていた。しかし、一生そこに飾っておくわけにもいかない。それに、誕生日を「この日だ」と決めた時の、「ゆりかごから墓場まで」は一体何だったのか。我が子の事を想うと、申し訳なくなってきた。
また、この時は車屋の定期点検パックとやらも購入していたため、点検スケジュールが目白押しだった。初めての点検は、新車の1か月点検だった。確か、数百㎞は走らせていた方が良いと聞いていた。
どうしよう。車庫から出したくない。しかし点検するのに納車した日とほぼ同じ状況だったら、なんかパックに入ってるのに勿体ない。それに親ならば我が子のことに責任を持たねばならん。
親心のもとの責任感と謎の貧乏性精神に突き動かされ、1か月点検を目前に、寝た子を起こして走ってみた。往復400㎞弱くらい走らせたと思う。折角クルマを出したのだから、沢山走った方がお得じゃないか、というこれまた謎の貧乏性精神で、走らせた。
一応、前を向いて走ることはできるらしい、ということが判明した(試乗の時も前向いて走っとったやないかい)。しかし問題は、車庫入れだった。こんなにも車庫入れを恐れるのには、ちょっとした理由があった。運転が下手なのは言うまでもない。もう一つは、その車庫には何だか錚々たるクルマたちが同居していたのであった。
確か総数7~8台が入居できる車庫だったが、何だか高そうな外国車が3台いたり、クラシックカーが隣に停まっていたり。シャッターつきの屋内車庫だったからだろうか。ともかくギョッッとするクルマたちが半数くらいだったと思う。
とてつもない偏見だが、コワイ人だったらどうしよう、とか思うと、ぶつけるのが一層の事怖かったのだ。コテンパンにやられてしまうのではないか、と小心者ゆえにドギマギしていた。
ここでちょっとした余談。
当時暮らしていたアパートで駐車場を借りていたのだが。納車後に大家さんと出会った時に、こう言われた。
大家さん:「あなた、ずいぶんと大きなクルマを買ったんだね~」
続けて、ほかのクルマについてこう言われた。大家さん:「クルマだけ見るとワッ!って思っちゃうかもだけど、入居者の皆さん、本当に良い人達ばかりだからね~。いたずらされたりなんて事、全く心配ないから。それに、万一ぶつけても、心配しないでね、直接話したりしなくて良いよ、私が間に入ってあげるからね~」
どうやら大家さんはワシの運転技術を心配していたようだった。ご迷惑をかけないように重重気を付けます、と話して別れたのだった。
クルマを走らせるまではクリア出来たが、車庫入れに関しては上述のような感じだったので、苦労することになる。「お家に帰るまでが、遠足」とは、よく言ったものだな。
時間がかかってしまうので、できるだけ人が出入りするような時間帯を避けて帰る等していたのだが。
この時だったか記憶が定かでないが、とある外国車と帰宅タイミングがバッティングしたことがあった。かなりお待たせしてしまった。すごく焦った。だが、トチ狂ってほかの車たちにぶつけるわけにもいかない。
『誠に申し訳ない。だが、小心者の初心者だと割り引いてくださいませ、ひぃいい~』という一心だった。
やっとこさ(多分5分はお待たせしただろう)通路を空けられた。するとその人は本当に慣れた手つきで切り返しすることもなく一発で、一瞬のうちに車庫入れを終えて、悠々と降車し去って行かれた。
その後ワシはまだナナメに曲がって停車している我が子を真っすぐに正す必要があったのだった・・・。
こんな感じで暫く苦労した車庫入れだったが、いつの間にか慣れていき、毎回ではないが、すんなりと出来るようになっていった。「Practice makes perfect(習うより慣れよ)」ともまた、よく言ったものだな。
それからワシは、調子こいて我が子との逢瀬を愉しみ、慈しむようになるのである。納車後1か月以上経過してようやく、積極的にカー・ライフを謳歌しようと思えるようになった。
・・・ところで、「親心」って、それが芽生えただけじゃ「親」にはなれないんだね。我が子と共に時間を過ごすにつれ、段々とゆっくりそうなっていくのかね。そうだと良いなと思いながら、床に就いたのだった。
この永ったらしい前置き、もうちょっと、続く。