鎌倉時代の歌仙秀歌集「小倉百人一首」は、藤原定家が京都の小倉山荘で撰したとされ、元々は歌集になります。その後、天正時代(1573~1593年)にポルトガルから伝わったカルタは公家の間で優美な遊びとして広まり、庶民の間でも楽しまれるようになったのは江戸時代のことでした。
かるた遊びのルーツを辿ると平安時代の貝合わせ(はまぐりの絵柄を揃える)や安土桃山時代に伝来した南蛮かるた(トランプの一種)まで遡ることになりますが、江戸時代に流行った歌かるたは現代でもその文化を伝えています。
昨今では『ちはやふる』(競技かるたを題材にした少女漫画)がアニメや映画になるなど幅広い年代の方にあらためて知られるようになりました。
小倉百人一首の歌かるたは、上の句が書かれた読み札百枚、下の句が書かれた取り札百枚からなりますが、遊戯具として楽しむ他にも読み札の絵柄や上・下の句の書の美しさも魅力の一つです。美術品や工芸品としての魅力は、百人一首を詳しくない方でもつい欲しくなってしまうものなのかもしれません。アンティークや骨董品を好む方にも魅惑の逸品だと思います。
遊戯具というより愛蔵品。つい欲しくなってしまう小倉百人一首かるたをまとめました。
目次
- 光琳かるたについて
- 江戸時代などの古い百人一首
- 価格と品質について
- 百人一首の専門店と出版社
- 松井天狗堂について
- 雅な小倉百人一首を写真にて
光琳かるたについて
尾形光琳筆の幻のかるた。
尾形光琳(おがたこうりん)と言えば、名前は知らずともその作品である絵画(紅白梅図や燕子花図)、工芸品(八橋蒔絵螺鈿硯箱)は、国宝指定されているものであり、本や博物館で見た方もいらっしゃると思います。
尾形光琳作の小倉百人一首は、存在自体は知られていましたが実物が世に出ておらず、長く「幻のかるた」と呼ばれていたものです。
しかし、この幻のかるたが、約四十年前に京都の旧家から発見されたことで、光琳かるたが脚光を浴びます。(正確には光琳かるたの所有者から大石天狗堂が複製依頼を受けたのがきっかけに発見された)
尾形光琳筆の小倉百人一首が発見されて以降、多くのかるた専門店が復刻版の光琳かるたを作られましたが、現行品はかるた職人の高齢化や後継者が少ないことからごくわずかとなりました。
光琳かるたは、お値段が高め(愛蔵品だけに)
練習用や競技用のかるたは、2,000円前後の価格で購入できますが、光琳かるたを含む観賞用として楽しむ製品はお値段が高めです。高額なものだと定価が200,000円を超えることがあります。
しかも市販の製品がこの価格ですので、まさに観賞用というものでしょう。(限定生産のものも多いですが、市販の製品も高額)
また、製品によっては価格にかなり差があり、50,000~250,000円と様々です。
江戸時代などの古い百人一首
百人一首かるたの作品は、江戸時代の中期から後期にかけて、公家文化や婚礼の調度品として趣向を凝らす作品が見られますが、その後、競技かるたとして庶民の間で流行し、戦後の時代まで楽しまれておりました。
江戸時代に作られた百人一首かるたは、機械印刷がない時代です。多色摺り木版画による、下絵を描き、版を彫り、色を摺るという手作業で作られた作品になります。上下の句も肉筆であるため手作りの良さが伝わります。
しかし、当時から300年近く経ってしまっていることもあり、状態の良い物も多くはないと思います。また、良い物となると出回ったとしてもそれなりのお値段にもなりますね。公家や武家など高家の所蔵の品や婚礼調度品として作られたものから庶民の競技用のものまで様々な品がありますが、違いは外装や札を見て分かるところも多いと思います。
違いは何か?を考えてみると、大量生産品であるか一点ものか。大量生産するには、コストをかけずに製作する必要があり、限られた時間と費用の中で数を作らなければなりません。そのためには、札の質感や絵柄、色の種類など削るところは削る。よく言えばシンプルな作りと言えますが、簡略化された作りにしてあると言えると思います。
一方、一点ものなど調度品のような扱いの品であれば、そういった制限はかなり緩和されるでしょう。費用との相談にはなると思いますが、絵師や彫師、摺師など職人達が存分に腕を揮った作品であったのだと思います。
化粧箱などの外装を含め、札の良し悪しの違いも如実に表れるところではないでしょうか。
価格と品質について
定価が高い=品質も高い は、成り立つ等式かもしれませんが、定価に関してはメーカーがつけているだけですので、消費者側からするとその価格ほどの価値があるかは、また別の視点が必要だと思います。
そこで、物の良さや違いについて少し整理してみました。
小倉百人一首かるたの付属品
化粧箱 | 札を収める箱。主に木製 |
---|---|
帙箱 | 札を包む箱。厚紙に布を張ったもの(帙(ちつ)箱) |
札 | 読み札・取り札(各100枚) |
解説書 | 百人一首や製品の解説書 |
共箱は、化粧箱が兼ねていることがほとんどです。作家性のある作品の場合は、化粧箱とは別に共箱が付いていることがあるかもしれません。
※共箱・・・作家自身の箱書き(署名)がある箱。
これらの他にも朗詠用のカセットテープがつく場合もあります。
品質の違い
札(材質) | 板紙、和紙・金箔紙 |
---|---|
札(摺り) | 手摺・機械印刷 |
札(色数) | 多色刷り・4度刷り(8、12度刷り等) |
帙箱 | 無地布・金襴織 |
化粧箱 | 漆塗り・桐・天然木・樹脂・紙 |
解説書 | 内容による |
札の多くは、板紙(厚くて丈夫な紙)に和紙張りや金箔を施したものです。金箔が使われている物ほど高価になります。高価なものは金箔の他、金梨子地(金の細かい粒)が使われていたりします。近年販売されている摺り方の多くは機械印刷のものですが、中には手摺(てずり)のものもあります。しかし、松井天狗堂(閉業)、大石天狗堂の古い作品(花札)の一部のみです。
※手摺は、機械による印刷を行わず手作業による彩色を施します。
また、札の色については、多くは多色刷りと表記されますが、4度刷りなど刷り方の表記がされている場合もあります。
帙箱は、付属していないものもあり、単に布地に包まれているものもあります。(紺や朱が多く見られる)無地布より金襴織などの加工が施されているものの方が当然高価になる傾向があります。
化粧箱は、本格的なものは本漆塗り蒔絵箱。次に桐箱、その後は天然木などの木箱となります。安価なものは樹脂などのプラケースや紙箱になります。
解説書は、定価10,000円を超すものが付属する場合もあります。(小冊子程度のものから本格的なものまで、内容によると思います)
それから絵札について付け加えると、高額の品の多くは尾形光琳作の絵柄を採用しており、現代の作家による作品は稀です。100種の絵柄を描き下ろしで作るのには多大な労力がかかるのは容易にわかりますので、相応の採算が取れない限りは新しい作品を生むことは難しいのかもしれません。
品質の見定め方まとめ
ここまで、詳しくは書いてみましたが、これらの製品仕様は終売のものとなるとどこにも書いていないことが多いのです・・・。
ですので、品質の見定め方としては、
- 金・銀箔仕上げは、高い。
- 本漆塗り蒔絵箱は、箱も高い。
- 手摺のものは、今はほとんど作られていないから高い。
この他、札の保存状態も。このあたりを念頭に置いておくと良し悪しの見分けがなんとなくつくかもしれません。もちろん、現行品であれば販売元の製品案内に詳しく記載があると思います。
百人一首の専門店と出版社
かるた製作会社
- 田村将軍堂
- 大石天狗堂
- 任天堂
- 松井天狗堂(2010年閉業)
出版社(販売元)
- ほるぷ出版
- 桜楓社
- 大日本印刷
- 平凡社
- 栗山工房
- 小学館
市販の小倉百人一首の一覧(終売含む)
現行品
謹製・発行 | 品名 | 価格 | 発売 |
---|---|---|---|
大石天狗堂 | 光琳かるた 金箔紙仕上げ | 132,000円 | 2015年 |
大石天狗堂 | 光琳かるた 和紙仕上げ | 60,500円 | 2015年 |
終売品
謹製・発行 | 品名 | 価格 | 発売 |
---|---|---|---|
大石天狗堂 | 尾形光琳筆 金彩 小倉百人一首 愛蔵版 | 200,000円 | 2000年代前半 |
田村将軍堂 | 佳鳳かるた 金箔紙仕上げ | 134,400円 | 2007年12月 |
田村将軍堂 | 歌宴かるた | 24,150円 | 2007年12月 |
ほるぷ出版 | 光琳かるた | 250,000円 | 1980年代 |
任天堂 | 小倉百人一首 変体仮名超特選 | 31,500円 | 1979年 |
任天堂 | 小倉百人一首 鳳凰 | 15,750円 | 2007年10月 |
小学館 | 尾形光琳 小倉百人一首 | 98,000円 | 1974年11月 |
松井天狗堂 | 手摺り 小倉百人一首 | 35,000円 | 2010年まで |
桜楓社 | 陽明文庫 百人一首 | 36,000円 | 1981年10月 |
大日本印刷 | 小倉百人一首 岡田嘉夫 | 100,000円 | 1989年12月 |
平凡社 | 光琳かるた | ? | ? |
栗山工房 | 型染歌留多 | 132,000円 | 1986年1月 |
百人一首以外
謹製・発行 | 品名 | 価格 | 発売 |
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大石天狗堂 | 源氏歌かるた | 50,000円 | 1974年 |
松井天狗堂について
松井天狗堂さんは、職人の高齢化や後継者不在などを理由に2010年に閉業しております。価格に関しては、おそらくになりますが(私の記憶によると)
手摺り小倉百人一首 -> 35,000~50,000円手摺り花かるた鳳凰 -> 6,000円
松井天狗堂さんの製品は、花札もそうですが状態のいいものはプレミアのついた価格で販売されています。百人一首の実勢価格は、50,000円~80,000円くらいになります。
詳しくはこちらにも
雅な小倉百人一首を写真にて
百人一首は、小倉百人一首の他にもご当地物、偉人物、キャラクター物など様々なものも作られております。趣向や絵柄など面白い物もたくさんあるので探してみるのも楽しいですね。