交通事故に遭ったら、後日警察署へ出向いて事情聴取というのをしなくてはならない。愛しの我が子は入院中につき、代車で出掛ける予定だった。
警察署へ出向くよりも数日前に、加害者がやって来た。事故現場で念のためにと連絡先は交換していたが、その後のやり取りは保険会社とすることになっている。そもそもお互い交わることもない筈の間柄だから、メモはしておいたがまたと会うことなどないと思っていたので驚いた。
加害者はただ謝りたいだけだったようだ。詫びの品まで持ってきていた。
謝られたところで我が子の怪我を無かったことには出来ないし、ワシ自身の体も負傷している。なので加害者の心情はこちらでは受け取ることもない。というか、何故かその気にならなかった、というのが真相だ。よって、答えようがなかった。
だが、この際気になっていたことがあったので、加害者に尋ねてみた。「携帯電話を片手に運転していたのですか」と。あの時加害者が携帯電話を持っていたのがやけに気になっていたからだ。事故発生時の挙動もおかしかった。で、加害者はこう言った。
「・・・あぁ~、はいぃ~、ちょっとぉ~・・・」失礼ながら、気持ち悪いくらいにクネクネしていた。
ちょっとでもそっとでも、変わりはない。加害者は携帯電話を片手に運転していたということが判明した。
もう一つ驚いたことは、この時、加害者の母親(だと思う)が同伴していたことだった。
えっ、こいつ、未成年だったの(・∀・)!?お世辞にも全くそうは見えないけれども。見た目から、ワシよりかはやや歳上だと思っていた。
親が同伴で来るというのは十中八九、一般的には未成年だろう。稀に成人していても親が出てくるご家庭もあるだろうがな。で、この母親(と思しき人物)はワシに対してこう言った。その言動に、一同(ワシしかいないが)唖然。
「この度はすみませんでした。お体しっかり治してください。今後は、お体の治療やお車の修理等の話は、保険会社とやってください。こちらに連絡を寄越すようなことは、くれぐれもないようにしてください」
前半はともかく、後半については全く意味不明な言動だった。頼みもしないで押しかけてきておいて、なんてことを宣う輩だと思った。
言うまでもなくワシは相手に連絡を入れたこともなければ、連絡するといった頭がハナからない。こうなったら加害者が未成年か成人かなんて議論は関係なくなる。このご家庭は「そういうご家庭」なんだと思うしかない。こういう偏見はよろしくないのは知りつつも、この時はそう思うよりほかなかった。そして、今回の事故さえなければ交わることのない人種であり、不幸にも出会してしまったのだと思って気持ちを片付けることにした。
冒頭で、「加害者は謝りたいだけ」と書いたが、それをここで訂正する。加害者は、自己保身を第一の目的として来ただけだったのだろう。ここで、先ほどワシが素直に謝罪や反省を受け取ることをしなかった理由がなんとなく解った気がした。いやはや、野生の勘って、働くね。
諸々悟ったので、ワシはこれしか言えなかった。「携帯電話の事は正直に警察に話してください」
しかし・・・「そういう人種だ」と頭では片付けたものの、自分が咎められたような気分になってしまうのは、何故だろう。ワシ、なんもしとらんのやがなぁ(苦笑)。そんなに、ワシ、怒鳴り込んでくるような怖い人にでも見えたのかね。
それから数日後、警察署にて事情聴取。色々聞かれた。そのうちの一つが、忘れられない。
今回の事故の原因は何だと思うか、と聞かれた。ワシは「加害者が携帯電話を持って運転していたからです」と答えた。だって先日、奴はそういっていたし。
だが警察はこれに対して文句をつけてきた。どうやら加害者側の方が先に事情聴取を済ませていたらしい。警察曰く、相手側は確かに‘ほんの少し’携帯電話は見ていたが、それが原因ではなく悪天候によりブレーキがきかなかったのが原因だと言っているから、相手の証言に合わせろと言ってきた。俄然納得いくわけがない。
ワシ:「加害者は自分で携帯電話を見ていたと言っていましたよ。あの時の挙動不審さからしてもそうだと思うから自分は言ったまでです。証言が食い違うようであれば、加害者にもう一度ちゃんと聞くべきではないですか。何故加害者側の証言に合わせる必要があるのですか」警察:「しかしねぇ、誰も証明できないでしょ(そりゃまあ、確かにそうだ。)。相手が言っていることを信じるしかないんです。だから、合わせてください」ワシ:「では自分の証言は信じてもらえないということですかね。それに、あくまで事故の原因が何だと聞かれたからこれだと思う事を言っているのです」警察:「今回の事故による点数が××点で、相手の方もそれ相応の刑事罰を受けています。もう、それで許してあげてはいかがですか」ワシ:「許す、許さぬの話をしているのではありません。それはまるで論点が違います」
この後警察がこう言った。この一言に一同(ワシしかいないが)驚愕。
警察:「アナタ、そうは言ってもねぇ、だって、この程度の事故でしょ」
心の声:(そんな適当な仕事をしているから、この県警は不祥事も多いし、ゆえに県民からの信用も信頼も得られないんだろううよ)仕事に優先順位があるのは解るが、この場において事故の大小について語られたくはなかったのが本音だ。以前、警察に不信感をおぼえた出来事があった。あれは他愛ない切っ掛けでしかなかったのだが、今回の対応が決定打となり、その瞬間からワシは警察に対してもはや何も期待しなくなった。
ワシ:「成程、そうですか、よくわかりました。ではあなた方のお望みどおりに虚偽の証言をして差し上げましょう」(※実際にそうは言っていないが、似たような事を言ったと思う。)で、自分の中の真実が歪められた形で事情聴取を終えた。
今回学んだことは、コレに尽きる。「交通事故は、その大小に関わらず、往々にして被害に遭った側が大きく割を食うことになる」
確かに、ワシが遭遇した交通事故は、はたから見たら些細な事故だったのだろう。有難いことに、なんだかんだ言って、ワシ、まだ生きてるし。だが確実に負傷しているし、頚椎をやられたので歳月とともに手足の痺れは増している。つまりは一生かけてこの割を食っていかねばならんのだ。
理不尽な話はこれで終わり。こういう話は言い出すと、もうキリがないので自分でキリをつけるしかない。ワシは未だ入院中の我が子の生還を心待ちにすることにしたのだった。
続く。