とても貴重な松井天狗堂さんの小倉百人一首。
日本で唯一の『手摺りカルタ』を作られていた松井重夫さんによるお品です。
知る人ぞ知るというお品かもしれませんが、手摺りによる製作は昭和25年に途絶えてしまったと言われており、それを現代に蘇らせたのが松井天狗堂さんの『手摺りカルタ』になります。機械印刷では味わえない深い色彩は、絵柄本来の雅さを伝えてくださり、量産品のそれとは全く別物であると言える作品です。
目次
- 松井天狗堂さんの小倉百人一首を写真にて
- 手摺りの良さ
- 花札よりも貴重な百人一首
- 高額取引される松井天狗堂の百人一首
松井天狗堂さんの小倉百人一首を写真にて
私が手持ちの小倉百人一首は、松井天狗堂さんが手摺り製作を始めてからしばらく経ってからのものだと思います。外箱、化粧箱に大きな差は見られませんが、読み札(絵札)の作画の違いや取り札の草書の書体に違いが見受けられます。
外箱
和紙張りに「手摺り 小倉百人一首」の記載有り。
化粧箱
上等な桐箱で、質感の良いものです。
札
札自体の出来の良さがあります。
絵柄
機械印刷にはない味わい。
取り札
裏紙の縁返しが額縁のように見える仕立て。
札の裏面
裏紙の貼り合わせも申し分なし。
作画
仁木伴山画。絵札の作者と思われます。
手摺りの良さ
上記の百人一首は、平凡社ブッククラブ発行、田村将軍堂謹製の光琳かるたになります。尾形光琳による光琳かるたを精巧に複製した復刻版で、印刷は日本最大手の印刷会社である凸版印刷が担当されたものになります。こちらの百人一首も高価なもので、金箔張りの札が良いものです。
こちらの光琳かるたと見比べてみました。
機械印刷(光琳かるた)
絵柄は精巧な複製による凝ったもの。
手摺り(松井天狗堂)
いかがでしょうか?実のところ感じ方は人それぞれだと思います。
絵柄自体がそもそも異なりますし、機械印刷の品も光琳かるたの復刻版であり、札も板紙(厚くて丈夫な紙)に和紙張りや金箔を施したものが使われている質感の良いものです。しかし、一見は札の良し悪しはわかりにくいものですが、高価なものでも札に丸みを帯びてしまうのがほとんどです。
平置きで見比べてみると札の歪みの違いがわかります。機械印刷の光琳かるたはかなり湾曲がありますが、松井天狗堂さんの札にはそれがありません。また、手に取るとよくわかるものですが、札の質感が全く違います。この辺りは写真ではわかりにくいものなのですが、札の厚みを見比べてみると歪みのない理由や札の質感の良さが多少は伝わるかもしれません。
それから、主な違いはやはり彩色という点になりますが、機械印刷の精緻なものを好む方もおられるかもしれません。それに、手摺りの方はよく見ると型から色がはみ出たりずれています。
これは、彩色を行う過程で、色を塗る部分を切り抜いた台紙を表紙に被せ、刷毛で一色ずつ塗っていくわけですが、これを繰り返し使う関係でどうしてもわずかながら台紙が伸びたり縮んだりをしてゆきます。それが型からはみ出たりずれたりしているように見えてしまうわけで、決して職人の手仕事の良し悪しが出たものではありません。このような手摺りならではの不完全さを味わいと捉えるかどうかでも変わってくるように思いました。
また、手摺りの彩色は、製作のその時々により顔料の微妙な違いや刷毛による色塗りのムラが見られることもあります。
機械印刷による精緻さや細部の絵柄と手摺りによる色鮮やかさと不完全な味わいの差は、本当によく出るものだと思うものですが、手間隙かけられた手摺りの札はいい物だと私は感じます。
光琳かるたの方も職人さんが一枚一枚金箔を手張りして作成したもの。どちらも手間隙かけられた品であることに違いありません。
手作業で貼り合わせられる裏紙もとても綺麗な仕上げ。
花札よりも貴重な百人一首
松井天狗堂さんと言えば、花かるたの名で製作された花札がよく知られます。「鳳凰」「菊華」「敷島」といった品々は、古物取扱い店やフリマサイト、オークションなどで見られ、状態のいいものほど高額で取引されているものです。
※鳳凰・敷島が一級品、菊華は二級品とされており、わずかな傷などが見受けられたものは二級品とされていました。(当時二級品は半額程度で購入ができました)
一方、小倉百人一首も製作されておりましたが、こちらはあまり目にすることがない貴重な品。
花札と比べると枚数では、四十八枚と百枚(絵札)のように倍以上の多さ。札の大きさも百人一首の方が大きいです。色使いも百人一首の方が多く、女性歌人の纏う衣の十二単は、色鮮やかなため使われる色がかさみます。
※花札では銀彩が使われますが百人一首では使われず。歌人の姿は、花札のように花鳥風月、四季を表すものではないため、銀彩はあえて必要なかったのかもしれません。
手摺りカルタの製作は、台紙作りから表紙の摺り出し、色入れ、艶出し、台紙と表紙の切断を経て裏紙の貼り合わせとなりますが、松井天狗堂さんはこれを一人で手掛けられておりました。このため、製作できる数には限りがあり、枚数と色の多い小倉百人一首は、1年に50組程度の製作であったと言われております。
高額取引される松井天狗堂の百人一首
先の通り出品されること自体が珍しい松井天狗堂の百人一首ですが、時折見かけた場合でも高額な値段が設定されていることがほとんどです。
紺裏地 33,000円 2020年12月銀裏地 77,000円 2018年11月
他にも銀裏地のものが58,000円で販売されていたのも見たことがありますが、出品数が少なく価格帯もまばらです。
松井天狗堂さんによる販売価格は、35,000円~50,000円程度だったと思いますので、定価と同じかそれより高値で取引されております。
とても貴重な松井天狗堂さんの小倉百人一首。芸術作品と言っても差し支えないお品だと思いますので、お手持ちであれば長く大事に扱いたいものですね。