コロナウィルスの対応でいち早く緊急事態宣言を出し、存在感を示した北海道の鈴木直道知事。
その行動力やリーダーシップを評価する方は少なくないと思いますが、鈴木知事が夕張市長時代に行った観光施設売却について、問題視されているのはご存知でしょうか?
ネット上では「切り売りされる北海道」「北海道のモリカケ問題」「中国系企業への利益供与疑惑」など目を引くタイトルで問題点を指摘している記事が散見されるものです。
この問題の要旨は、
中国系企業に約2億4000万円で売却した夕張の観光施設が、2年後に約15億円で香港系ファンドに転売されてしまった。
というもの。
夕張市が売却した額と転売されてしまった額の差は10億円以上。また、売却から2年足らずの出来事であった為、中国系企業への利益供与ではないか?夕張市は大損したのではないか?と疑問視されています。
これらの詳しい内容は、ハーバー・ビジネス・オンラインの以下のバックナンバーより参照ができるものですが、
北海道版“モリカケ事件”!? 自民推薦の鈴木知事に中国系企業への利益供与疑惑掲載日/2019.05.02, 取材・文・撮影/横田一, ハーバー・ビジネス・オンライン
これを一読すると限りなく黒に近いグレーのような印象を持ってしまいます。(おそらく誰もが)それくらい明らかにおかしい事が行われている印象です。
※この問題は、北海道議会定例会で日本共産党の真下紀子議員にも指摘され、鈴木直道知事が答弁を行っておりますが、この答弁内容も疑惑を払拭するものではなかったと感じております。(令和元年7月3日 第2回北海道議会定例会※北海道のHPで議事録が読めます)
しかし、落ち着いて考えてみるとここまで杜撰でいい加減な事を複数の関係者が関わる中、規定の選考プロセスに従い進め、一定のチェック機能が働くはずの中でありうる事なのか?と逆に疑問に思うくらいの内容でした。
そこで、問題視されている各点について、様々な情報を参照し、問題を丁寧に整理してみました。
※私は鈴木直道知事の擁護派でも問題視している側の者でも何でもなく、単純に問題視されている内容は本当に正しいものなのかを知りたかっただけです。(念のため。怪しいものではありません)
目次
- なぜ、転売禁止を契約に盛り込まなかったのか?
- なぜ、中国系企業の元大リアルエステートに売却が決まったのか?
- なぜ、中国系航空会社の参入を拒んだか?
- なぜ、固定資産税の免除までしてしまったのか?
- その他疑惑もあり、鈴木知事は説明責任を果たすべき
なぜ、転売禁止を契約に盛り込まなかったのか?
そもそも転売が行われていなければ、この問題や疑惑は生じていません。加えて、転売禁止を契約に盛り込むのは当然のことで、行政も通常は不当な投機目的を避けるため、買い戻し特約や転売禁止の条件を盛り込みます。
転売禁止を契約に盛り込む予定があるか否かは夕張市議会でも問われており、鈴木直道・前夕張市長は以下のような答弁をしております。
平成29年第1回臨時夕張市議会会議録 平成29年2月8日(水曜日)午前10時30分開議鈴木直道・前夕張市長の発言
契約上、何年間で転売を禁止するというような文言については謳っておりません。しかしながら、今回売却をしようとしております現地法人でもございます、元大夕張リゾート株式会社様からは、既に、今、申し上げた現地法人の立ち上げ、さらに地域に根差して長年にわたり営業を継続していきたいというお話。これは先ほど言った委員会の中でも、同様の趣旨のご発言をいただいているところでございます。
平成29年第1回臨時夕張市議会会議録(PDF)より引用
ここまでの内容では、口約束を信じて転売禁止を契約に盛り込まず、結果的に転売をされてしまった。と読み取れます。しかし、以下も合わせて読むと少し話が変わってきます。
以下の内容は、令和元年第2回北海道議会定例会会議録の内容です。
令和元年第2回北海道議会定例会会議録 令和元年7月3日(水曜日)午前10時開議質問者 日本共産党 真下 紀子 議員
(二)転売禁止規定等について夕張市特定財産売却選考委員会の座長から、5年間の転売禁止規定について聞かれた「元大」の社長は、「売り抜けはしない、納税はする」と述べて、契約にこの規定を入れることを拒否しました。
売却先の選考は、夕張市特定財産売却選考委員会が執り行い、複数回の会議を経て選考が行われております。上記の発言内容は、夕張市特定財産売却選考委員会の会議内容に関して、情報公開請求で明らかになった内容です。
この話から転売禁止を盛り込まなかったというよりは、転売禁止を盛り込もうとしたが盛り込めなかった。と読み取れます。
では、転売禁止を契約に盛り込まないのであれば、売却しない。という判断はできなかったのでしょうか?
これを整理する前に、私が一つ疑問に感じたことがあります。夕張市議会での転売禁止を盛り込むか否かを問う中で、引っ掛かる点がありました。
以下は、鈴木直道・前夕張市長が転売禁止に関する答弁をしている内容とその答弁を聞いた後の議会の進行です。
●市長 鈴木直道君今川議員の質問にお答えをいたします。契約上、何年間で転売を禁止するというような文言については謳っておりません。しかしながら、今回売却をしようとしております現地法人でもございます、元大夕張リゾート株式会社様からは、既に、今、申し上げた現地法人の立ち上げ、さらに地域に根差して長年にわたり営業を継続していきたいというお話。これは先ほど言った委員会の中でも、同様の趣旨のご発言をいただいているところでございます。まさに、これは市が考えていた、施設の継続、雇用の確保、地域経済の活性化に長年にわたって、図っていただけるということを期待しているところであります。●議長 厚谷 司君他に質疑ありませんか。〔「なし」と呼ぶ者あり〕●議長 厚谷 司君ないようでありますから、これをもって質疑を終結いたします。これより討論に入ります。〔「なし」と呼ぶ者あり〕●議長 厚谷 司君討論がないようでありますから、直ちに採決いたします。本案は、原案のとおり決することにご異議ありませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕●議長 厚谷 司君異議なしと認めます。したがって、本案は、原案のとおり可決されました。
平成29年第1回臨時夕張市議会会議録(PDF)より引用
鈴木直道・前夕張市長の発言に対して、誰も疑問を呈することなく可決され会議が終了してしまいます。口約束で契約してしまい転売をされる結果となり、道議会でも問題を追及されているわけですが、この答弁の内容で夕張市議会の議員が誰も何も指摘をしなかったことに違和感を感じてしまいます。
地域に根差して長年にわたり営業を継続していくという話ならば、5年間の転売禁止規定を盛り込んでも困ることはないはずです。そういう話であるなら念のため盛り込むようにするのが夕張市にとって有益な判断だったのではないか?と思ってしまいます。
少なくとも転売禁止の条件を盛り込むか否かの質疑に関して、夕張市議会で十分な議論が行われなかったのは事実だと思います。
なぜ、中国系企業の元大リアルエステートに売却が決まったのか?
なぜ、この会社に売ってしまったのか?売却先の会社の妥当性や信頼性は本当にあったのか?(なぜあったと判断したのか)というのも問題視されています。
令和元年第2回北海道議会定例会会議録 令和元年7月3日(水曜日)午前10時開議質問者 日本共産党 真下 紀子 議員
(三)夕張市長としての経験について夕張市から観光施設を買い入れた「元大」の資本金は100万円です。夕張市特定財産売却選考委員会に投資計画も出さず、社長が提案書A4版の紙一枚と、100億円投資すると口頭でプレゼンしただけです。ファンドへの転売も示唆し、委員から「売却の内容が途中からM&Aという話があった」、「正直、納得できなかった」という発言や、信頼度に不安を寄せる声、長期間大丈夫だろうかと不安の表明が続出しました。
資本金100万円の会社。100億円投資するという話も具体的な計画の提示はなし。投資ファンドへの転売の示唆。この他、会社の住所(マンションの一室)の隣に暴力団事務所がある点についても、反社会勢力と繋がりがある会社ではないのか?という指摘もあります。
※元大リアルエステート社の所在地は、東京都台東区西浅草3丁目28番19号-201。隣の202号室が浅草高橋組・本部の事務所になっております。
問題視する側は一様に、なぜ、こんな会社に売ってしまったのか?しっかり調べたのか?などを指摘しています。
そもそもなぜ、施設売却に踏み切ったのかというと、2007年の財政破綻を契機に指定管理者制度の下、加森観光の子会社・夕張リゾートが運営を行ってきました。この契約が10年目の2017年3月末で満了するため、今後の施設の扱いを決める必要がありました。
施設売却に踏み切った理由については、鈴木直道・前夕張市長が以下のように説明しております。
「夢」を主語に挑戦するまちへ鈴木直道・前夕張市長の説明
施設売却に踏み切ったのは、そもそも論として、宿泊施設などを市が保有するのはどうなのか、という視点からです。指定管理者制度では、施設を改修するにもその都度、市の判断が必要になります。しかし、観光分野においては、民間の発想でスピード感をもってやってもらったほうがいいのではないでしょうか。民間のノウハウが最大限発揮されるには、施設自体も民間事業者に任せたほうがいいと判断しました。
「夢」を主語に挑戦するまちへより引用掲載号:2016年6月, 財界さっぽろオンライン
こちらの内容では、施設を市で保有するより民間で保有した方がいいと語られております。確かに一理ありますし、民間が施設保有することで固定資産税の税収も得られます。
いずれにせよ、2017年4月以降に観光施設の運営を続けるためには、施設売却先(または指定管理者制度での運営先)を見つける必要に迫られていました。
では、なぜ、中国系企業の元大リアルエステートに売却が決まったのか?については、第一回目の公募では応札がなく、第二回目の公募では優先交渉権者の採決まで選考に至ったのが、元大リアルエステートの1社のみでした。
また、第二回目の公募は2016年12月に行われており、選考の上、市議会で可決されたのは2017年2月のことになります。
そして、2017年3月末で加森観光との契約が満了するため、第二回の公募で売却先が見つからなかった場合、観光施設は閉鎖に追い込まれる可能性がありました。
売却施設である夕張の観光施設は、多くの従業員を抱えており冬場には300人規模の雇用を生む貴重な雇用先にもなっています。売却先の元大という会社が素晴らしい会社であるとか信頼できる会社であったと判断したというよりは、夕張市の貴重な雇用先の確保を優先しての政治判断であったとも考えられます。
なぜ、中国系航空会社の参入を拒んだか?
「中国系航空会社が10億円で購入を希望も、市長は面談を拒否」という表題で疑問を呈している内容が以下のものです。
その後、取材を進めると「なぜ、10億円で購入する可能性のあった中国系航空会社とは面談しなかったのか」という疑問も浮上してきた。新千歳空港に乗り入れている中国系航空会社が2017年当時、市所有の観光4施設を現地視察した上で購入を検討、10億円を準備していたというのだ。中国系航空会社の関係者はこう話す。「中国系航空会社の専務が現地視察をして、2017年1月に夕張市役所の担当者とも面談しています。市の公募参加資格に入っていた『日本国内に登記されている法人』という条件が障害になっていたので、直接交渉をしようと市長面談を申し入れた。ところが『別の企業と交渉中』を理由に拒否されました。なぜ、資本金100万円のペーパーカンパニーにしか見えない元大グループに売却が決まったのか。桁違いに資本金が多い大企業が見向きもされなかったのか、理解できない」
北海道版“モリカケ事件”!? 自民推薦の鈴木知事に中国系企業への利益供与疑惑より引用掲載日/2019年5月2日, 取材・文・撮影/横田一,ハーバー・ビジネス・オンライン
参入話の前に、「資本金100万円のペーパーカンパニーにしか見えない」この点は印象操作が入っています。資本金は多ければ多い程企業の体力があるように思われますが、私達がよく知っている大企業も驚くほど少ない資本金の会社はいくらでもあります。(例えばヨドバシカメラは売上高7000億円を超える大規模量販店ですが、資本金は3000万円。書店の紀伊国屋も売上高1000億円を超えますが資本金は3600万円です)資本金だけでは企業の事業規模を測ることは難しく、資本金100万円だからペーパーカンパニーで怪しい。というのは正しくありません。
さて、なぜ、中国系航空会社の参入を拒んだかについては、売却の選考過程について時系列にまとめた方がわかりやすいです。
2015年10月9日 | 夕張市特定財産売却手法等企画提案事業者の決定。(売買仲介業務委託先の決定 -> 三井不動産リアルティ株式会社) |
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2016年4月28日~6月30日 | 第一回目の売却先の公募->応募6社 |
2016年11月 | 6社応募があったものの選考の結果、応札なしに終わる |
2016年12月6日~12月27日 | 第二回目の売却先の公募->応募4社(1社辞退) |
2017年1月10日 | 第8回夕張市特定財産売却選考委員会にて選考->元大リアルエステートを選考(優先交渉権者) |
2017年1月12日 | 中国系航空会社の購入意向、夕張市と接触 |
2017年1月30日 | 元大リアルエステートと仮契約を結んだと報道発表 |
2017年2月8日 | 夕張市議会にて、観光施設処分について可決 |
2017年3月31日 | 加森観光、夕張リゾートの運営から撤退 |
2017年4月1日 | 元大夕張リゾートを発足させ加森観光からリゾート施設の運営を継承 |
※以下の資料を参考に時系列をまとめています。
夕張市特定財産売却手法等企画提案事業者の決定について 夕張市(更新日:2017年3月31日)平成28年第4回定例会2日目 12月15日 夕張市(平成28年12月15日)平成29年第1回臨時会 2月8日 夕張市(平成29年2月8日)北海道版“モリカケ事件”!? 自民推薦の鈴木知事に中国系企業への利益供与疑惑 ハーバー・ビジネス・オンライン(掲載日:2019年5月2日)夕張市、元大リアルエステートに観光4施設売却へ 日本経済新聞(2017年1月31日)夕張市マウントレースイ、営業と雇用継続 都内の会社に売却 毎日新聞(2017年1月31日)
上記時系列を見ていくと、中国系航空会社から夕張市へ意向が伝えられたのが、2017年1月12日であり、第二回目の公募期間終了後(2016年12月27日)、第8回夕張市特定財産売却選考委員会(2017年1月10日)の選考後に持ち込まれた話となります。このため時期を逸しております。
また、「市の公募参加資格に入っていた『日本国内に登記されている法人』という条件が障害になっていた」とあるように、応募資格自体がありません。
市長に直談判、直接交渉を申し入れたとありますが、仮に市長と直接交渉したとしても難しかったのではないかと思います。公募期間外の話であり公募資格もなく、選考委員会の決定を覆してまで、中国系航空会社の参入を認めたり売却先に決定する方が問題だと思います。(それこそ癒着があったと捉えられかねない)
また、時系列を見る限り再々選考となる第三回目を行うことも2017年3月31日というタイムリミットを考えると、時間的猶予もなかったと思われます。
それから、もし中国系航空会社が売却先に決まっていたら、10億円で購入する可能性があったと言われておりますが、本当に購入の意思があったかも定かではありません。
日本経済新聞の2015年10月28日の記事では、『中国の格安航空会社(LCC)の春秋航空を傘下に持つ春秋集団(上海市)は28日、今後3~5年で日本でホテルを15~20カ所開業すると発表した。』とありますが、5年経った今時点で日本にホテルがいくつあるかと言えば、愛知県常滑市にある1箇所のみです。2017年以降、中国当局が中国国内の旅行会社に対して、日本への団体旅行を制限する通達をしたとの報道も出ており、諸事情を含め中国系航空会社にどこまで購入意思があったかは読み取れないものです。(本気で参入の意思があれば、公募期間中に接触を図ったのでは?と思ってしまいます)
なお、北海道議会定例会で中国系航空会社の意向があったことを知っていたか指摘されていますが、鈴木直道知事は以下のように答弁しています。
施設売却の経過についてでありますが、ご指摘のあった企業の意向については、企業名、内容ともに承知をしておりません。
なぜ、固定資産税の免除までしてしまったのか?
売却先である元大リアルエステートには、3年間の固定資産税の免除もつけられていました。問題視している側の意見としては、入ってくるはずの固定資産税が一銭も入らずに転売されてしまった。これはどうなっているのか?というものです。
なお、固定資産税を免除していなければ、1年で6000万円程の税収が見込まれたようです。
※固定資産税の額面は、左記を参考。夕張市、元大リアルエステートに観光4施設売却へ 日本経済新聞(2017年1月31日)
この免除に関しては、調べてみればすぐわかるのですが「夕張市企業開発促進条例」に基づいての措置です。
夕張市企業開発促進条例
第4条 前条の規定により、市長の指定を受けた者(以下「指定事業者」という。)が当該事業場を事業の用に供したときは、次に掲げる固定資産税について、最初に賦課される年度から3箇年度に限り課税を免除するものとする。(1) 製造の事業の用、農林水産物等販売業の用、索道業の用又はスポーツ施設提供業の用に供する機械及び装置(2) 工場用の建物及びその附属設備、旅館業の用に供する建物及びその附属設備、農林水産物等販売業の用に供する建物及びその附属設備、索道業の用に供する建物及びその附属設備並びにスポーツ施設提供業の用に供する建物及びその附属設備(3) 事業用の土地(新設又は増設のために取得し、かつ、取得の日の翌日から起算して1年以内に事業場の建設に着手した土地又は事業の用に供する土地で、規則に定めるもの。)
夕張市企業開発促進条例より引用
条例に基づいたものなので、何ら問題はありません。
その他疑惑もあり、鈴木知事は説明責任を果たすべき
問題視する側の意見は、やや誇張されている感は否めず、事実関係を整理し十分な説明と指摘が行われているかというとそうではない部分もあったと感じました。
また、これらの問題によって夕張市が得られたはずの売却金額と税収が損なわれている可能性が高いのであれば、住民訴訟に発展しても不思議ではありません。ですが、投稿日時点ではそのような話も持ち上がっていません。
個人的には偏りがあると感じた部分も多かったのですが、この他にも疑問に感じる部分は多くあります。特に問題がないことであるならば、鈴木直道知事は疑問に対して説明をするべきですし、その責任はやはりあると思います。
道議会での答弁では、誰もが納得する十分な説明であったとは思えないものでしたので、夕張市民、北海道民に対してきちんと説明責任を果たすべきだと思いました。