これまでの話のおさらい。車が欲しいと思った ⇒ 車を探した ⇒ 試乗した・・・で、これから商談。この一連の流れ自体はごく自然で一般的なものであり、何ら特殊な体験でもない。
今、こうして書き起こすにあたり、その時の出来事を思い出す作業が必要となる訳だが、さして苦労せず思い出せてしまう。それほどまでに、「マイ・カー」というのがワシにとっては夢のまた夢だったからだろう。おそらく多くの人が、初めて車を買った時の事を憶えているだろう。たとえ今はその車に乗っていなくとも。
単なる思い出話にしては、一頻り思い入れが強いということもあり、今回こんな長篇の駄文を認めている次第である。
さて、こんな与太話(出鱈目ではないが)にお付き合い下さる方は、話の続きへどうぞ(笑)。
試乗から戻り店へ入ったら、飲み物が出てきた。五臓六腑に染み渡るとはこのこと。疲れていた体が少しシャキンとなった。あの営業にも一服が必要だろう。バックヤードに行ったまま、少し待たされた。今しばらく待ちぼうけの時間を過ごした。
営業がようやくこちらへやって来た。スタッフをもう一人連れて来た。ははーん、若葉マークの営業だから、商談にはトレーナーが同席するのだな。自分自身も初めてとりかかる商談、という場だったので、もう一人ついているなら安心だ、と思った。
・・・しかし。何だか、若者担当者の顔つきが先ほどと違う。顔が、こわばっている。どうしたんだ一体。
おやおや~と思い始めた矢先、もう一人のスタッフが口を開いた。「この度はお世話になります。わたくし、若者担当者の上司をしている〇〇です」こりゃどうもと名刺を受け取る。上司は着席した。若者担当者は立ちっぱなしだったと思う。
なんだ、この構図は。何かあったのかと勘繰る。で、上司が話を続けた。
「実はですね、お客様が購入を検討されているややバリ車ですが、完売してしまって、もうないんです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。はっ(・ω・)?今、なんと・・・・・・・・・・(・ω・)?
1秒にも満たない思考停止ののち、若者担当者の顔つきについてのすべてを悟った。そしてワシは、こう言った。
「あれ。そ、そう、だったんですか。じゃ、ダメですね。残念です。帰ります。お邪魔しました」深々~と、ぺこり一礼。
上司はあろうことか、こうも続けた。「あの~、バリバリ車なら、まだあるんですけど・・・(やや引き気味に、云った。)」
なに、言うてまんねんな。心の中でこの上司と若者担当者にハリセンでべしこーん!とツッコミを入れたくなった。販売店としてはあくまで現実を伝えただけだろうがな。
ちょっと、今は何も考えられないという旨を伝えて、その日は店を後にした。若者担当者はひたすら平謝りだったと記憶している。ていうか、あの数分前までの試乗の時間は何だったのか。しかし、まぁ何と言っても仕方がない。結局ココでもご縁がなかったのか。
意中の相手(某社)がダメだったからと諦め、意外の相手(C社)とで夢を掴もうとしたことへの、神様からの何かのお叱りだったのだろうか。もう、何が何だかよく解らんが、ウッッ・・・グッッ・・・ときてしまい、また妙なモノを詠んでしまった。
原因が何かは追求しなかった。聞いたかも知れんが、ショックゆえに右耳から左耳であっただろう。営業の確認不足とか、連絡不行き届きだとか、はたまたタッチの差で売れてしまった、だとか。どうせミスやトラブルというのはそういった事に起因するものだ。
ま、若者ひいてはC社よ、この事に学んで以降は同じことが起きぬようにしておくれ。
店に対してはこういった感覚で、なんとかおさめることができた。これ、もしもワシが‘怖い人’だったらどうなっていただろうか(笑)。怒鳴ったりしていただろうか。啖呵切らずに、短歌詠んでおさめられたワシよ、うむ、よく我慢したぞ(自画自賛)。
自宅へ着いたら、急にぐったりとしてしまった。なんだよ、もーーーーーーー( ´ ・ д ・ ` )。やるせなさに包まれるしかなかった。
ワシ、自分なりに紆余曲折(というか右往左往)してやっとこさ検討しようと言う気になっていたのに。のに、のに、のに。今は車、買い時ではないのだろうかね。
そこで耳に残る、あの一言。『バリバリ車なら、まだあるんですけど・・・(頭の中で、リフレイン)』
いや、いやいやいやいやいや(嫌、ではなく、否、ね。)。無理だよ。身の丈に合わなさすぎるから、ワシには無理じゃ。
それに、この車探しの旅が始まって以降、度々親父とは連絡を取っていたわけだが、折に触れて親父が口にしていたキーワードに、「車のかわいそう度」というのがあった。親父は「運動神経のないオマエのような人間に乗られる車は、心底かわいそうでならない。」と幾度となく口にしていたので、車の購入にあたり、「車のかわいそう度」も考慮に入れていたのだった。なので、バリバリ車ではなく、せめてややバリ車、と考えるようになったのだった。(※親父から言わせると、ややバリ車でもかわいそうだ、との事だったが。)
だがしかし。しかし、だ。「嗚呼、バリバリ車、愉しかったなぁ~(●´∀`●)」なんてことを想いはじめているワシが、ココにいた。
何だこの感覚は。と考え、はたと気が付いた。
車欲しさバロメーターが、少し前に10段階中9まで上がっていたわけだったが、ここへきてマックス10まで到達していた。
なんで、また、このタイミングでこうなるのだろうかね。訳が分からん。とりあえず、試乗の報告がてら親父へ一報入れた。
ワシ:「とーちゃん、かくかくしかじかで、ややバリ車、完売しちゃったらしいよ」ついでに、やや小声でこうも付言してみた。「バリバリ車はあるそうだが・・・」親父:「ふん、販売店め、やらかしおったな。しかしまぁ、またゆっくり車探せばよいさ」・・・どうやら後半の小声はスルーしたらしい。
ワシ:「ふぅ、うん、そうなんだけどさぁ、いや、そのさぁ、バリバリ車、すーんごい愉しかったんだよなぁ」・・・ちょっと、言ってみた。
親父:「そりゃ、当たり前だ、そんな車、楽しいに決まっている」ワシ:「ふぅ、そうなんだよねぇ。・・・・なぁ、とーちゃん、ワシ、バリバリ車、検討してみようかなぁ。欲しくなっちった」・・・胸中を打ち明けてみた。
親父:「お、おまっ・・・!!!バリバリ車『だけ』はやめておけ!オマエの手に負える車ではない!!!!」これまでにない猛反対を受けた。加えて親父は、こう続けた。
「いいか、よく聞け。車は人を選ぶんだ。それぞれの車には、各々のポテンシャルというのがあるんだ。バリバリ車はだな、C社が魂つぎ込んで造った、それはそれは素晴らしいポテンシャルをもったクルマなんだぞ。乗り手である人間はそれを引き出してやる事が出来なきゃならんのだ。オマエにはその資質は、ない!だから、やめておけッッッ!!」
けちょんけちょんに言われているのに、「さすがクルマが好きな人のコメントは、こうでなきゃな」と思った。親だから言える言葉ってあると思うが、この言葉はその類の言葉だろう。ゆえに、ものすごく納得した。
親子ならではの会話なわけだが、それゆえ、自分も親父の話を聞いていると段々バリバリ車がかわいそうに思えてきた。
では親父の言う通り諦めて別の車を探すのか。それともこの勢い(車欲しさバロメーターMAX)に乗って突き進むのか。
即決はせずに、しばし悩むことにしたのだった。
続く。